「良く見て描きなさい」で子どもの描くデッサンがピカソのキュビズムに!

小学低学年に初めてデッサンを指導した時のことです。

その子達にとっての初めてのデッサンでもあり、指導者としての私にも初めてのデッサンの指導です。

子ども達へのデッサンの指導は、美大生への指導とは勝手が違います。

モチーフを配置し、イーゼルを立てて、画板と画用紙をセットする。姿勢を固めて、画面にいかに配置するか構図を決めて、細部にとらわれすぎずに全体的に描き始める。

そういう描き方が、子ども達にとってふさわしい指導と言えるのだろうか?

描き方を教えることで、こども達自身の探究心を狭め、ものと向き合う視点を固めてしまうのではないか。

いろいろ考え悩んだ末、「このバケツをよーく見て描きなさい。」とだけ伝えて筆洗バケツを渡しました。

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デッサンを教え込まれた私にとっては、デッサンの描き方など全く知らない子ども達が「よく見て描きなさい」と言われ、どのように描くかとても興味がありました。

ほとんどの子どもがバケツを机に置いて描き始める中で一人の男の子がバケツを左手に持って描き始めました。

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バケツを横にして描いているかと思えば、くるりと反転させ、上部を自分の方に向けて描き、また、くるりと回転させて今度は底を観察しています。

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不思議な描き方に驚きながらも、そのまま描かせていました。

およそ10分で仕上がったその子の絵を見て、私は震えてしまいました。

なんとピカソのキュビズムの絵にそっくりだったのです。

ピカソは研究を重ねて多視点からものの本質を捉えて描くキュビズムを完成させましたが、その子は誰に教わるでもなく初めてのデッサンでやってのけたのです。

「バケツをよく見て描きなさい」と言われ、描き方を刷り込まれた美大生にとっては、視点を固定して一視点から見て描くことが当たり前なのですが、そんな描き方では本当の意味でバケツを良く見て描いたことにはなりませんよね。

だって、バケツには反対側も底もあります。いろいろと視点を変えて観察しないと良く見たことにはなりませんよね。一視点から見て描くとバケツのある側面だけしか描けないのですから。

本当に子どもの好奇心とそれをなんとか1つの画面に描こうとする柔らかい思考には驚かされることばかりです。

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PROFILE

屋嘉部 正人
屋嘉部 正人芸術による教育の会GM
沖縄生まれの大阪育ちの千葉県野田市在住
多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業
横浜美術大学絵画コース非常勤講師

大学四年生から芸術による教育の会で美術教室教師としてアルバイトを始め、大学卒業とともに同会に入社。

美術家として個展やグループ展など多数発表を続け、新制作協会に所属。

50歳を機に人生をリセット
・右利きを辞めて左利きとして生まれ変わる
・やりたくてやらなかったことを全てやる
52歳で新制作協会会員を退会
53歳でこれだけはやめられない一番好きなお酒をやめる
・芸術による教育を全国に広める伝道師として芸術による教育の会GMとなる
・「紙コップのインスタレーション」を各地で実施。