「もっと良くなってほしい!」
我が子の成長を願うのが親心です。
私たち美術教室の先生も同じ気持ちです。
日々のレッスンを通して、子どもたちを感動させたい。満足させたい。
そして、美術的なセンスで柔軟な思考力を育んでほしい!
そう願うのが教師心です。
30年前、私が美術教室の先生になったころのレッスン時間は、なんと!無制限でした。
好きなだけ・・満足するまで教室で制作していてよかったのです。
そして、子どもたちのためにあらゆる素材をかき集めて、ひらめいたらすぐに作れるように準備してありました。
美術好きの子どもにとっては、まさにパラダイスですよね!
しかし・・なぜでしょう?
パラダイスを毎週楽しみにしているはずの子どもたちが、なぜだか長続きせずに美術教室を辞めていきました。
もちろん、私の指導力の未熟さも大きな原因の一つだったと思います。
当時、私は自分の指導力が未熟だと認めていたからこそ、子どもたちに不自由をさせないように、そして残念な気持ちにさせないようにと最大のサービスをして未熟さをカバーしていたつもりでした。
「何が足りなくて辞めていくんだろう?」
辞めていく子どもたちや保護者に直球の質問をぶつけて見ました。
「美術教室の何が不満で辞めるんですか?」
驚いたことに、子どもたちも保護者も、「美術教室には満足している」というのです。
「ええっ????」ですよね。
私:「満足していてなぜ辞めるんですか?」
保護者:「うちの子は美術教室が大好きで、絶対にやめたくないっていうんです。」
私:「はい・・それなのになぜ?・・」
保護者:「美術教室に来ると2時間は制作しているでしょ! 家に帰ると6時過ぎていて・・それから宿題をするんですが・・美術で疲れた!って言って宿題をやらないんです。」
「それで、そんなんなら美術教室やめなさい!」ってお父さんも怒っちゃって。
私:「・・・」
なんということでしょう。
私は美術で子供たちを満足させることだけを考えていて、子供たちのそれぞれの毎日の諸事情をわかってあげていなかったのです。
良かれと思って努力していたことが・・・こちらの身勝手な思い込みだけだったわけです。
そして、その後すぐにレッスン時間を無制限から、1時間30分に変更しました。
時間変更の通知後に、きっとたくさんのクレームが来るはずと思って、保護者と顔をあわせることを恐れていたのですが・・・
誰一人として時間制限したことによる不満をいう人はおりませんでした。
「それは当たり前でしょ!」と、お子様のいらっしゃる方々からの声が聞こえてきそうです。
そうなんです。これまでが迷惑なくらい長過ぎたんです。
実は後に知ったのですが、1時間30分でも長いんですよね!
今時の子供は大人顔負けなほど忙しいのです。
私自身美術家ですから、1時間30分では短かすぎて制作に集中できないと感じています。
でも、子供たちにとってはそれでもまだ長いのです。
そして10年ほど前から、思い切ってレッスン時間を1時間10分にしました。
1時間ではなく+10分にこだわった理由は、美術は何かと準備や後片付けに時間がかかるからです。
1時間10分に変更した当初は、生徒たちから「短い!」「もう終わりなの?」と大ブーイングでした。
でも、保護者にとってはちょうど良い時間のようです。
「短くしてくださりありがとうございます。」と言われたくらいです。
しばらく続けてみると・・驚く変化がありました。
子供たちがこれまで以上にレッスンに集中しているのです。
子供たちいわく、時間が短いからこそ、時間を大切にして集中しているのだそうです。
そしてどうやら、子供たちにとっても「ちょっと物足りないくらい」がちょうどいいようなのです。
その理由は・・
まず、体力と気力が余っているから、帰宅後にちゃんと宿題などもやる。←これ大事!
そして、「もっとやりたかったなあ!」という、物足りない気持ちはイイ意味で心に残るのです。
「来週来たら、こうやって・・ああやって・・・そして・・」って感じで次に続くモチベーションになるということがわかりました。
それはとても大事なことなんです。
以前のレッスンでは、週に一回のレッスンごとに完結していました。
ですから、大きな達成感は残るのですが、次のレッスンでどこを工夫するかなどの気持ちを継続させて進めていくモチベーションにはなりませんでした。
それと比較して、少し物足りないレッスンは、次のレッスンまでの6日間になんとなくモヤモヤと次にどこを工夫するかの作戦を考えていたりするのです。
だから、こちらが準備をしないでも、子供たち自らが考えて準備をするのです。
これは、主体性を育みます。
完結していない1日・・
このモヤモヤ感が子どもの心を揺さぶり、思考力を刺激し続けます。
心理学用語で使われる「未完の行為」(=過去の心残りが今の悩みを引き起こしていて、過去に遡って未完を完結させ、悩みを解決する)にも似ています。
本当に賢く工夫する子供に育てたかったら、少し物足りないくらいがちょうどイイ!
「足りていない」感覚が、工夫して完結させようとする動機となるのです。
例えば、下の絵を見るとモヤモヤと嫌な感じがしませんか?
人は、このモヤモヤ感に耐えられません。
自ら手を加えて未完を完結させないと気持ちが休まらないのです。
子どものことを愛し過ぎて全てを満たしてあげることは、むしろ子どもの成長を阻害します。
少し物足りないくらいがちょうどイイのです。
「おかあさん、ちゃんとやってよ!」と子供に言われたら・・
「あれ!ちゃんとやったつもりだけど・・何か足りなかったあ?」と思いっきりとぼけてやりましょう。
最後に完結させるのは、子供自身にさせてあげるのです。
「お母さんを頼りにしてもダメだ!」と子どもが思ったら、それこそしめしめですよ!
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PROFILE
-
沖縄生まれの大阪育ちの千葉県野田市在住
多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業
横浜美術大学絵画コース非常勤講師
大学四年生から芸術による教育の会で美術教室教師としてアルバイトを始め、大学卒業とともに同会に入社。
美術家として個展やグループ展など多数発表を続け、新制作協会に所属。
50歳を機に人生をリセット
・右利きを辞めて左利きとして生まれ変わる
・やりたくてやらなかったことを全てやる
52歳で新制作協会会員を退会
53歳でこれだけはやめられない一番好きなお酒をやめる
・芸術による教育を全国に広める伝道師として芸術による教育の会GMとなる
・「紙コップのインスタレーション」を各地で実施。
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