「誰だろう?」
教室の掃除をしながら準備をしていると・・・駐車場を挟んで30メートルほど離れたところに、私より少し年配の女性が立って、ずっとこちらを見ています。
5分たってもそこから離れず、こちらを見ています。
少し気味が悪かったのですが、私は軽く会釈をしました。すると・・・
その女性は会釈を返し、こちらに向かって歩いて来ます。
(ちょっと・・ちょっと・・だれ?この人??)
その方は近くまで来てこう言いました。
「屋嘉部先生ですよね。」
「はい。そうですが・・」
「Kを覚えていますか?」
「えっ!」
「Kちゃんのお母さんですか?」
なんと、Kちゃんのお母様がわざわざ私に会いに来てくださったのでした。
Kちゃんが中学校にはいけなかったこと、高校は通信の高校でなんとか卒業したこと。
そして、就職したことを話してくださいました。
「それで、Kちゃんは元気ですか?」との私の問いに・・
「先生、実は・・Kは今ある会社の社長をしています。」とのこと。
「はあ!?」「どういうことですか?」とあまりの驚きで理解できない私に・・
Kちゃんは、高校卒業後にある企画制作の会社に就職をしたとのこと。そして、その会社の社長さんにとても気に入られたとのこと。気に入られた理由は、Kちゃんが絵が上手くて、社長の伝えたいことを絵に描いてクライアントさんに伝えるのが上手だったとのこと。イラストを使って色々なアイデアをプレゼンする力を認められ、ついにその会社の子会社を立ち上げるときにその子会社の社長に抜擢されたとのこと。
Kちゃんは、とても明るく温かいコミュニケーションが取れる女の子だったので、幸せに生きていけるとは信じていましたが、美術を活かした仕事につくとは思ってもいませんでした。
「ところで、こないだの震災の時は大丈夫でしたか?」との私の問いに・・・
その時は、Kちゃんは新しい商品開発でドバイに行っていたので大丈夫だったとのこと、仕事で世界中を飛び回っているとのことなどを勢いよく話してくださいました。
そして、最後に・・・
「先生、実は私が今日ここに来た理由は・・・」とその理由を話し始めました。
「Kは、学校にもいけなかったけど・・美術が好きで、美術の力で会社の社長にまでなりました。美術の力は社会に出た後で本当に役立つんです。そのことを生徒さん達に伝えてください。」とのことでした。
Kちゃんのお母様が私に一番伝えたかったことは本当にそのことだったのでしょうか?
私にはそうは思えないのです。
「美術を通して培った力は生きる力になる」というのは私がずっと保護者様に伝えてきたことです。それをKちゃんのお母様が改めて私に伝えようとした本心は?
「先生が言った通り、Kは社会でしっかりやっていますよ。」
「なんとかやっていますよ。だから安心してくださいね。」ということが言いたかったのではないかと思います。
今、お二人がどうしているかわかりませんが、幸せに過ごしていることを心より祈っております。
いつかまたお会いできることを楽しみに、私はこれからも同じ場所で美術教室を続けていきます。
Kちゃんの居場所を確保して。
長文にもかかわらず、最後まで読んでいただきありがとうございました。
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PROFILE
-
沖縄生まれの大阪育ちの千葉県野田市在住
多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業
横浜美術大学絵画コース非常勤講師
大学四年生から芸術による教育の会で美術教室教師としてアルバイトを始め、大学卒業とともに同会に入社。
美術家として個展やグループ展など多数発表を続け、新制作協会に所属。
50歳を機に人生をリセット
・右利きを辞めて左利きとして生まれ変わる
・やりたくてやらなかったことを全てやる
52歳で新制作協会会員を退会
53歳でこれだけはやめられない一番好きなお酒をやめる
・芸術による教育を全国に広める伝道師として芸術による教育の会GMとなる
・「紙コップのインスタレーション」を各地で実施。
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