「園児の個性を伸ばす課題を教えて欲しい!」と幼稚園や保育園の先生方から相談を受けます。
園では芋掘りや運動会の思い出を描かせることが多いらしく、一人一人の個性が出た思い出画というより、それぞれの気持ちが表現できていない説明画になってしまうのが悩みだそうです。
それもそのはず、園児にとっては芋掘りや運動会そのものが自分を表現する機会であり場なのです。
それを思い出して描かせるといってもねえ・・みなさん・・幼児が数日前または数週間前の感動を持続していると思いますか?あの時の感動をリアルに思い出せるでしょうか?
それに・・運動会のかけっこで一等賞だった子どもはいいですよ。
思い出したくもない子どももいます。
だから、園児達の思い出画の多くは感動のない説明画になることも少なくないわけです。
それでも、たくさんの幼稚園や保育園で思い出画を描かせています。
なぜでしょう?
きっと、思い出画を描かせるのではなく、初めから説明画を描かせるつもりの先生方も多いんじゃないのかなあと私は思っています。
幼稚園の先生や保育園の保育士さんは美術教育の専門家ではありません。
だから、どのように描かせていいのかがわからない。
説明画なら、その時の状況を説明して思い出させることができる。
字の書き方を教える時の手ほどきと同じように、あの時の状況を紐解いて説明し思い出させることならできるわけです。
多くの先生達は、子ども達にまともな形を描いてほしい、普通の絵(見えた通りの絵、保護者が見て理解できる絵)を描いてほしいと願うようです。
だから、正しい文字を身につけさせるように、絵も大人が見て理解できるものを描いて欲しい。
その方が安心。
保護者にも認めてもらえる。
園の先生達にとっては、むしろ、個性的すぎて何を描いたかわからない絵については不安に感じてしまい、みんな同じような絵を描いてくれた方が安心なのかもしれません。
その気持ちはわからなくはないのですが、それでは子ども達の個性は育まれませんよね。
教室で子ども達が描く絵は、時として先生の心を映し出す鏡のようでもあります。
子ども達はいつも自由な子ども心を解放しているわけではなく、「いい子」でいようと従順な子ども心で先生の顔色を見るのです。
先生が「私ちゃんと指導できるかしら?子ども達はちゃんと理解して今日のテーマの絵を描いてくれるかしら?」と不安になっていると、子ども達はその空気を読みます。
緊張して描けない子どもがたくさん出てきます。
そんな子ども達を見て、先生はますます不安になります。
そして、ついに・・・「たとえばね・・」と言って見本を描いて見せたりします。
「○○ちゃんの絵を見てごらん!」と誘導したりします。
園児たちはイメージを刷り込まれてしまいますので、先生や上手なお友達の真似をしてしまいます。
完成した作品を教室に飾ってみるとみんな同じような絵ばかり。
本来の目的は園児一人ひとりの心の中の思い出を描かせたかったはずですが、終わってみると、「みんな同じような個性のない絵」が並ぶのだそうです。
そんな悩みを持つ先生方のためにアドバイスをしたいと思います。・・・
私たち芸術による教育の会でも思い出画を描かせます。
しかし、思い出画を幼児期に描かせるというのはかなり難易度が高いのです。
もっと、先にやるべき課題があります。
子ども達と先生が良い信頼関係を作るための課題です。
「みんなと同じじゃないと不安」という課題ではなく、「みんな違うからイイ」という課題です。
先生が一人一人の違いを認めることにより、子ども達一人一人が自己肯定感を育むための課題です。
それでは、今回から数回にわたり、園児一人ひとりの個性的な発想を育む課題を紹介しましょう。
第一回目としてオススメの課題は「切り抜いた形からの発想」です。
1、まず、園児一人に好きな色の折り紙を一枚選んでもらいましょう。
2、次にそれを三角折りにします。
3、「ハサミ君がサンドイッチを食べるよ!」といって、ハサミで折り紙を切ります。
4、切り抜いた折り紙を開いて見ましょう!どれ一つとして同じ形がない、変な形が出来上がります。
5、切り抜いて出来た変な形の二つの折り紙を画用紙の上に置いて見ましょう。
6、「なんだこれ!」「何にみえる?」「二つ合わせると?」と問いかけ、自由に発想させます。
【この課題の良い点】
1、偶然できた不定形なので誰一人として同じ形のものは作れませんので、先生やお友達の真似ができない。
2、真っ白な画用紙だと緊張して描き始められない子どもでも、不定形がその緊張を壊してくれます。
3、絵が苦手な子どもには、不定形が「ヒント」となり、少し加筆するだけで意味のある形が出来上がり一人一人の自信を育みます。
4、いつもワンパターンで同じような絵ばかりを描く子どもには、不定形がワンパターンを壊してくれますので、新しい発想を促してくれます。
5、「みんなと同じだから安心」ではなく、「みんな違うからイイ!」と、先生がそれぞれの独自性を認めてあげることで積極性と個性を育みます。
【作品例】
教えたがりの先生は子どもの個性を伸ばせません。無意識に先生自身のイメージの枠に子どもを押し込もうとしてしまいます。
子どもの個性を伸ばす素晴らしい先生は、「子どもの主張を聴く」素晴らしい耳を持っている人です。
大人も子どもも、自分の話を聴いてくれる人が大好きです。
「切り抜いた形からの発想」は子ども達一人一人に「なぜ?」「どうして?」「何しているところ?」「これは?」と先生が子ども達にたくさんの質問を投げかける課題です。
「イイ耳を持った素晴らしい先生になる」先生にとっての為になる課題でもあります。
そして、「すごいねえ!」「なるほど!だから・・・なんだね!」と共感し、たくさんの肯定的な言葉をかける先生が子どもの想像力を健やかに伸ばすのです。
「切り抜いた形からの発想」オススメです。
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PROFILE
-
沖縄生まれの大阪育ちの千葉県野田市在住
多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業
横浜美術大学絵画コース非常勤講師
大学四年生から芸術による教育の会で美術教室教師としてアルバイトを始め、大学卒業とともに同会に入社。
美術家として個展やグループ展など多数発表を続け、新制作協会に所属。
50歳を機に人生をリセット
・右利きを辞めて左利きとして生まれ変わる
・やりたくてやらなかったことを全てやる
52歳で新制作協会会員を退会
53歳でこれだけはやめられない一番好きなお酒をやめる
・芸術による教育を全国に広める伝道師として芸術による教育の会GMとなる
・「紙コップのインスタレーション」を各地で実施。
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