基礎編Part1【子供の絵の発達段階について】
私たち芸術による教育の会の教師のほとんどは美術大学出身者です。
「芸術学士」を取得しているということです。
しかし、子どもたちへの美術指導については美術大学では学びません。
美術大学で学ぶ美術の知識だけでは子どもたちに美術を指導することはできません。狭い知識からの偏った指導になってしまいます。
そこで、私たち芸術による教育の会の教師は子どもの美術について専門的に学びます。
毎月一回の研究会で実践的なことを学びあいますが、まず64年間培ってきた基礎知識を詰め込んだ「どこでもアート-すご美」Eラーニングで学びます。
今回は、「子どもの絵について学ぶ」基礎編の基礎として、子どもの絵の発達段階について取り上げます。
幼児教育に携わる方もちろんのこと、「うちの子は絵が苦手で大丈夫かしら?」とお悩みのお父さんお母さんも、この記事を読んでいただき安心してお子様の描く絵をあたたかく笑顔で見守っていただけたら嬉しいです。
第1章 絵の発達段階
第1章
はじめに
子どもの絵の発達段階について
子どもの絵には発達段階というものがあります。
子どもの絵の発達段階とは、発達に伴う子ども達の絵の変化を、年齢と段階によってわかりやすく示したものです。
子ども達の絵は知能と心の発達に伴い、表現が変わっていきます。
年齢順に見ていくと、発達には順序があり、多少の早さ遅さの違いはありますが、基本的にほぼ同じ発達の道筋をたどっていきます。
アメリカのペンシルバニア州立大学の教授で美術科教育を専門としていたローエンフェルドの研究では、就学前の幼児の絵については、発達による絵の変化の順番は万国共通であるということがわかっています。
このように子どもの絵の変化には段階がありますが、個々の子どもの個人差や指導のあり方により、必ずしも年齢に一致する場合ばかりではありませんので、そこは子ども達の性格や発達にあった指導をしていくことが大切です。
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1~2才
字のごとく、こすりつけて描いた絵です。
子どもが一番初めに出会う絵です。
子どもははじめに自分の手の運動や痕跡が現れることに興味を持ちます。
例えば、こぼした牛乳や水をテーブルや床に指でこすりつけたりなど、その感触を楽しみ、その痕跡に興味を持ちます。
そして白い紙にクレヨンや絵の具をこすりつけ、満足した表情を示します。
子どもの絵はここから始まります。
子どもは最初から自分の感情や考えを表そうとして絵を描くわけではなく、
このように材料体験の面白さが進んでメラメラ描き(ぐしゃぐしゃ描き)を盛んにするようになります。
これが子どもの絵の出発点です。
この時期の子どもの絵は運動的な快感と、よごす興味によって描かれます。
この時期の「なすりつけ」「こすりつけ」は決して意味のないものではありません。
一つ一つの行為を感じ、確かめ実験を繰り返しているのです。
その行為はとても子ども自身にとって意味のあることなので、取り上げたり禁止することはせず一緒に見守ってあげましょう。
錯画期
1才6ヶ月~3才
この時期の子どもの絵は、今までぎごちなく打ち付けられていた点や、身体の重みで引かれたこすりつけの線とは違い、意思のあるしっかりした線を描きます。
強い線がたくさん引かれ、やがて、曲線が引かれ、円形の線も描けるようになってきます。
大人から見て、ただのいたずらとしか見えないこの「なぐり描き」の時代は、物に作用し、その物と自分との関係を知り、眼と手の運動を一致させるものであり、
肉体的にも快い満足感を得ているのです。
この時期を経て、次に物の形が生まれてくるのであり、形になっていないからといってこれを禁止したり、早くから何か形らしい物を描かせようと無理強いしてはいけません。
この時期は、自分の意思で描いた線が元あった物の景色を一変させたことに満足し、「ほら!見てみて!」と共感を求めてきます。「何を描いたか?」ではなく、「私がやったんだよ!」という自己効力感への共感を求めているのです。
この時期にぐしゃぐしゃ描きやなぐり描きを充分にやって満足した子どもは絵を描くことの好きな子どもになっていきます。
3~4才
子どもはぐしゃぐしゃ描きをしているうちに、お話をするようになり、線のかたまりや円形らしき物を指して、「りんご」とか「お母さん」とかいうようになります。
それは大人からみれば、そのものの形といえるものではありません。
この時期の子どもの絵には、三角や四角や円らしきものが記号のように象徴的に表れます。
見たり聞いたりの経験の中で、偶然に思いついたことを象徴的に表すもので、最も自己中心的な時期です。
また、「何を描こうかなあ?」と考えてから描くのではなく、描いた後でその象徴的な形からある具体的な形を連想し意味付けします。ですから、「考えてから描く」のではなく、「描きながら考える」(動画参照)を繰り返しながら絵が展開していきます。
このお話を一緒に聞きながらお絵かきを見守ってあげる時間が子どもの自己肯定感を育み、とても安心する時間です。
この時期に「頭足人」という、頭から手足が描かれた人物が描かれることがあります。
この表現も世界中の子ども達に共通する表現です。
・子どもの絵における形の発生(錯画期から象徴期へ)
形の発生(ローエンフェルトの研究)子どもの絵において初めて形らしきものが描かれるのは3歳から4歳の頃です。その頃の子どもの絵の発達段階を象徴期と呼ばれています。
形とはいえ、象徴期のはじめの頃は、何を描くか決めてから描くのではなく、ぐしゃぐしゃ描きの中で偶然できた円形らしきものや、線のかたまりを指して「リンゴ」とか「ママ」とか言います。しだいに、何であるかを意識して描くようになります。
しかし、そこに表われる形は、本物とは似ても似つかず、大人が見るとやはり何を描いているのかわからないものがほとんどです。これは「図形的符号」であり、「シェーマ(Schema)」と呼ばれています。この「図形的符号」は実物とは関連しないようなものから、物の主な特徴が簡略化(図式化)されている線の輪郭に至るまで色々あります。
この時期に描かれる形が、いわゆる最初の「形」です。ローエンフェルドは「形の発生」について後世にのこる興味深い実験を行いました。子どもが描く「形」は、はたして何かを見て描いたものなのだろうか(視覚的経験)?
ローエンフェルドは、弱視の.子ども(ほとんど目の見えない子ども)と普通児とをグループに分け、描画および粘土で「形」をつくらせました。子どもが目で見て物を描いているのであれば、弱視児と普通児では、その形が異なるはずです。ローエンフェルドの実験の結果は、これまでの常識をくつがえしました。すなわち、普通児も弱視児も、全く同じ形を描いたり粘土でつくりあげたのです。この時期の子どもは目で見て物を描いているわけではありません。その形は視覚によるものだけではなく、子どもの内発的なものであり、肉体的な感覚であることを証明したのです。
「この時期(象徴期)の子どもは視覚的に見えているものを描画や造形において再現しているのではない」この事実は幼児の美術教育の方法を根本的にくつがえしました。「象徴期」の子どもたちへ「見て描かせる」という方法は、大人の価値観の押し付けに過ぎず、この時期の子どもの価値観において相応しくないということが明白になったのです。「幼児はものを見て描いていない」だから、絵を描くことに意味がないということではありません。この時期は「考えてから描く」のではなく、手を動かしその痕跡が残ることに興味を持ち、偶然できた形を通して大人とコミュニケーションをとることが嬉しいのです。意味のある形を描かせようとせず、お子様とのコミュニケーションをたくさん楽しんでください。
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カタログ期
3~5才
この時期は自分の知っている形が色々と描けるようになります。
3~4才にかけて、多くの子どもはこの段階に達し、知的欲求も目立ち、記憶力や思考力も発達し自分の知っていることや経験したことを表現しようとします。
物の形は簡単な線により暗示的説明的に表現されます。
描かれている形は説明されなくても十分に理解できます。
この時期の絵の特徴は、描かれた物同士が全く関係がないことであり、大小関係、因果関係、つりあいなどがとれていません。
木を描いたかと思うと次は魚、太陽といったように脈絡なく並べていきます。
ちょうど商品のカタログが並んでいるように描かれているので、カタログ期と呼ばれています。
この時期は言葉も相当豊富になっている時なので、指導者は物の大小の比較や正確さや順序などを正すようなことは言わないようにしましょう。
絵を描いている時に話す子どもの話を聞き、共感や興味をもって質問などをして
子どもがたくさん描きたくなるように促していくことが大切です。
5~6才
子どもが知的な面でも情緒的な面でも成長してくると、自分を取り巻く周囲との関係や状況を知るようになっていきます。
そして、人とはこんなもの、家とはこんなもの、自動車とはこんなもの、というように一つ一つの事物について確かな認識を持ち、それぞれの概念も形成されていきます。
特徴的なことは、例えば家、木、太陽、山、花、などに見られる記号的(図式的な)要素がどの子どもにも共通していることです。
画面には上下左右ができ、大小のバランスや物と物との関係づけができてきます。
色についても物の固有色を使う傾向が出てきます。
図式前期の子どもの絵の大きな特徴として「ベースライン」があります。
これは、地面との境界に一本の線が引かれ、その上に家、木、花、人物などがこのベースラインの上に並びます。
空は上にあり、空の境界にも線が引かれることもあります。
地面は常に下にありしたがってベースラインも画面の下方ギリギリに引かれることも多いです。
また、画用紙の下の縁をベースラインと考える子どもも多く見られます。
地面と空の間はよく何も描かれていない空間になりますが、ここは「空気」であって
ここには何も存在しないから描いていないのです。
いわゆる写実画のように一視点から見えているものを描いているのではなく、「自分の下には地面がある」「自分の上には空がある」「自分のそばには木がある」「家、木、花も自分と同じように地面の上にある」というように、客観的な視点ではなく自分を中心に物との関係を理解し描いている時期です。
これがこの時期の子どもの空間認識なのです。
客観的な視点ではなくファラオを神とした世界観で描かれている古代エジプトの壁画が、この図式前期の子どもの世界観に似ていてとても興味深いです。ファラオを中心とした人々と物との関係が重要なのでしょう。人や物が重なることで隠れたものの形が不完全になるような描き方や客観的な視点で世界を捉える描き方は価値としないのでしょう。
7才以上
図式前期を過ぎて後期に入ってくると、物と物の重なりや遠近が画面に表現されてくるようになります。
そうすると空は下方に下がり、地面が上方に上がり、空と地面がやがて接するようになり地平線や水平線が見られるようになります。
この時期になって、子どもは立体的な表現が可能になってきます。
見えた通りに描くことができるようになり、写実に興味を持ってくるのです。
物を見て描く方法はこの時期から出発させることが重要です。
図式後期以前に写実を強要すると、子どもの認識に追い付いていないため理解の消化不良を起こす時があります。
あくまでも個々の発達段階を見て、時期にあった指導をしていくことが大切です。
芸術による教育の会では、私たちと一緒に子どもたちへの美術を通した教育を一緒に学ぶ仲間を募集しています。「どこでもアート-すご美」Eラーニングでは動画を使ってより詳しく学べます。現在60名ほどの教師が一緒に学んでいますが、より多くの方々とお互いに知恵を出し助け合いながら、子どもたちへのより良い教育に活かしていきたいと思っています。
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PROFILE
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沖縄生まれの大阪育ちの千葉県野田市在住
多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業
横浜美術大学絵画コース非常勤講師
大学四年生から芸術による教育の会で美術教室教師としてアルバイトを始め、大学卒業とともに同会に入社。
美術家として個展やグループ展など多数発表を続け、新制作協会に所属。
50歳を機に人生をリセット
・右利きを辞めて左利きとして生まれ変わる
・やりたくてやらなかったことを全てやる
52歳で新制作協会会員を退会
53歳でこれだけはやめられない一番好きなお酒をやめる
・芸術による教育を全国に広める伝道師として芸術による教育の会GMとなる
・「紙コップのインスタレーション」を各地で実施。
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