研究ノート

芸術による教育の会研究部長:佐藤かよこ

芸術による教育の会副理事長:寺尾憲

性格はいかに作られるか

長男の育て方

 ここでは弟妹のいる長男(第一子)の扱い方について述べます。長男は両親にとって始めての子供であり、手探り状態で育てられます。とくに母親は手かげんがわからず、たいていは過保護、干渉過多になり、口やかましくなってしまうのが普通です。そしてその結果、長男は気弱でやさしく、消極的で用心深く、要領が悪く、のろのろしておっとりしている、いわゆる総領の甚六という性格になります。しかし、この性格になるには、もう一つ重要な要素があるのです。それは弟や妹が生まれた時から始まる疎外感と、それに対する母親の対応のまずさがこの性格を作ってしまうのです。 弟や妹ができると、長男は突然に母のひざやおっぱいから放り出され、自分が独占していた母は赤ちゃんにより占領されます。この時の長男の嫉妬、怒り、さびしさは想像を絶するものです。ここから長男の悲劇が始まります。
 母親は赤ちゃんに手がかかり、一日中べったりくっついて離れません。当然のこととして長男には『あなたは、お兄ちゃんなのだから、ちゃんとしなさい、しっかりしなさい』『がんばりなさい』『うるさくしないの』『静かにしなさい』『いたずらはダメヨ』『しつこくしないの』『そばに来ないで』『まつわりつかないで』『外で遊びなさい』『あなたは お兄ちゃんでしょう』………これでは長男はたまったものではありません。
 長男の心の中を書いてみましょう。『お母さん、どうしてぼくのところにきて、やさしく抱いてくれないの』『どうして弟ばっかりかわいがるの?』『ぽくのこと嫌いなの?』『そんなにぼくが憎いの?』『ぼくなんかいなくてもいいんだね』『ぼくと赤ちゃんとどっちが大切なの?』『好きで、お兄ちゃんになったんじゃないよ』『赤ちゃんなんか、どっかへあげちゃって!』『捨ててきてよ!』
 長男はいつも心の中で叫んでいるのです。つまり、長男は、いい子にしていてあたりまえ、ちゃんとできてあたりまえ、がまんをしてあたりまえ、という状態がずっと続くのです。『いい子にしていたら、お母さんは振り向いてくれるかもしれない』『我慢して、がんばったら、お母さんはやさしく抱いてくれるかもしれない』と長男は、けなげにも頑張り続けるのです。
 しかし、その我慢にも限界があります。限界を越えると、取り返しのつかない心にひずみを生じ、幼稚園などで問題児となってしまいます。情緒不安、ヒステリックになりやすい、無気力、ルールが守れない、集団行動ができない、など、その症状はさまざまです。

*長男が我慢して、がんばっていることを、共感を持ってほめてあげる
 『あなたにいつも我慢ばっかりさせてしまってごめんね、お母さんはあなたが頑張っているのをちゃんとわかっているのよ、えらかったわね。』『お母さんは、あなたのおかげで助かったわ、ありがとう』『あなたが大好きなのよ、でも赤ちゃんに手がかかるでしょう、ゴメンネ、でもいつも見ているからね』『今日一日だけ赤ちゃんにしてあげるね』『弟がわからないことを言って突っ掛かったとき、お兄ちゃんは我慢していたわよね、お母さんは、ちゃんとわかっていたのよ、偉かったわね、でも、我慢できなくなっちゃってゴツンとやっちゃったのよね…』

*『お兄ちゃんなのに』という言葉は厳禁
 長男にとって『お兄ちゃんなのに』という言葉ほどいやな言葉はありません。好きでお兄ちゃんになったわけではないのです。子供にとって、兄弟など本質的に欲しくないのです。

*怒るのはお父さんに任せる
 父は時々ドカンと雷を落とす必要があります。『お父さんが怒ったらこわい』という気持ちを長男が持つことができれば、ここ一番で頑張れる子になるでしょう。

*お母さんと長男は恋人関係と考えることで、長男はのびのびと育つ
 異性の親を恋人と考えることは、動物の性本能から、当然のことです。大好きな人にやさしくされれば、心が満たされ、情緒は安定し、社会(幼稚園や小学校)で元気良く頑張れるのです。一方、大好きな人に、しょっちゅう怒られ、小言をいわれ、指図されていたら、いいかげん嫌になってしまうのがあたりまえです。長男の情緒不安は、お母さんとのスキンシップとやさしい言葉とやさしい笑顛が特効薬なのです。

*転ばぬ先のつえを与えてはいけない
 こうしなさい、ああしなさいと指図ばかりしてはいけません。干渉過多は百害あって一利なしと考えてください。子供は失敗して初めて痛みを知り、恥ずかしさを知ります。その結果、失敗しないように、転ばないようにという知恵が働くようになり、物事の因果が体感を通してわかるようになるのです。ガミガミ怒鳴って子供を従わせても、翌日になると再び同じことが起こり、いつまでたっても解決しません。あえて口を出さずに、子供の失敗を見ていられる母が、子供の能力を伸ばすことは明らかです。母親の『がまん』が最も重要です。

*子供にここ一番、なにかさせなければならない時には、子供に約束をさせる
 『お母さんは、これから電車に乗ってお出掛けするのよ。あなたが電車の中で騒がないでいい子にしていると約束できたら、いっしょに連れていってあげるわ……どう、お約束できるかしら?』。電車の中で子供が騒ぎ出したら、『さっき、お母さんと約束したわよね、お約束、守ってくれるわね』。子供が静かにしていたら、『えらかったわね、お約束守ってくれたものね、また一緒に行こうね』